右・左偏光とコガネムシ


美祢化石館のコガネムシ
○ こんな実験です
蜂の目は偏光を利用して,曇天の日でも太陽の方向知って,長距離を迷わずに飛ぶことができます。また,カゲロウの仲間は,生殖期になると水溜まりの反射光の偏光を利用して集まります。コガネムシやカメムシ,タマムシなどの昆虫の体表面は液晶のような構造色(光の波長程度の微細な構造でいろんな色を発する)を持っており,円偏光の一方を選択的に反射します。

コガネムシの反射光が円偏光となることは,すでに20世紀初頭には知られていました。そして、1920年代にはそれらの昆虫の反射機構とコレステリック液晶との関連が指摘され,コガネムシの羽にはコレステリック液晶と類似の構造が存在するらしいと思われました。しかし,コガネムシの羽は固体なので,液晶ではありません。コレステリック液晶の構造と類似した螺旋構造になっていると思われます。左円偏光では地肌の色が見えますが,右円偏光では黒く見えることから,この虫のラセン構造は左螺旋であることが推察されます。
右円偏光板を通した画像が黒くなることは,このコガネムシが羽の下側に黒色色素層を持っているためであろうと思われます。コレステリックタイプの場合には,構造色による反射率の最大値は、発色している波長域でも 全ての虫は左ラセンの構造を持っている  

右偏光板を通して観察すると黒くなる
○ 円偏光板の入手先
(株)シータスク,光洋

○ 注意 コガネムシはレジンに密封されているものでも観察できます。できるだけ,黒いものより緑の濃い,色のはっきりしたコガネムシが観察しやすいです。
○円偏光とは
 左図は,振動方向が水平(紫)と垂直(黄)方向にある2つの直線偏光(振動面を進行方向から見たときに直線上を振動することになる)です。互いに直交する2つの波の位相を90度変えると,この2つの波を成分としてベクトル合成すると図の青の線のように振動は螺旋状になります。この螺旋を進行方向から見ると円なので,円偏光と呼びます。円偏光は回転の向きを持った特殊な光で,さらに左図の位相を180°変えると,反対回りの螺旋になります。螺旋の巻き方により,右偏光,左偏光ができます。

 円偏光板は,直線偏光板に複屈折性のあるプラスチック位相差フィルムを貼り付けて作ります。自然光は円偏光板の直線偏光部分を透過し,直線偏光になった後,位相差フィルムである1/4波長板を通ります。右円偏光になるか,左円偏光になるかは,1/4波長板の軸が直線偏光板の軸に対してどちらに45度傾いているかで決まります。

右偏光板と左偏光板。左偏光板は鏡に写すと黒く見えるので区別できる(神戸大学発達科学部の中川和道教授に切り分けていただきました)

鳥取市立美和小学校のグランドで見つけたコガネムシ。蛍光灯の光の元で撮影(2007.8.7)

左偏光板を通して観察。背景も含めて暗くなる

右偏光板を通して観察。青みがかった黒に見える

鳥取市井原テニスコート横の公園で,孫の捕虫網に飛び込んできたコガネムシ。緑がきれい。カナブンとも呼ぶ
右偏光板だとこの通り茶色に見える
左偏光板だと元の色と変わらない