平成19年度原子力体験セミナー「エネルギー問題探求コースT-2」

於:青森原燃テクノロジーセンター '07.8.13〜15   記録:足利(わかりにくい部分の一部加筆,聞き取れなかった部分の一部削除等あり)

限りあるウラン燃料を準国産エネルギーとして繰り返し利用する「原子燃料サイクル」のため,ウラン濃縮工場,高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター,低レベル放射性廃棄物埋設センターの3施設が操業中。「再処理工場」の操業開始と「MOX燃料加工事業」に取り組んでいる。
'07.8.14午後 「施設見学」核燃料サイクル施設,風力発電施設,石油備蓄施設

むつ小川原ウィンドファーム(1,500kW×22基)デンマーク製1,500kW型22基の国内最大級の施設。平成15燃より商業運転開始。17,500世帯の年間消費電気量。
8月13日(月)午前
講演「エネルギー利用と地球環境概論」丸山康樹 (財)電力中央研究所

【内容】
地球シミュレータ(3年間で15億円)の温暖化の結果をアニメーションで紹介
@ 大気モデル(シミュレーション動画) 海の上は観測地の季節変化を10年間平均して与える。ナビエストークス運動方程式 → 境界値データセットは無償で使える。空間データを二次元に圧縮。ボリュームレンダリング法
気候予測:10年間平均で計算。夏は冬より暖かい→気候→100年後に気温がどの程度上昇,氷がどの程度になるかを予測 (いつ台風が来る→気象)エルニーニョなど3年周期は気候では分からない。アンデス山脈に貿易風がぶつかってオレンジ色(動画省略)の部分は雨になる。チリやオーストラリア内部には雨が降らないことが分かる。オーストラリアの干ばつの予想。ゴビ砂漠はヒマラヤに風が当たるので雨は降らない。人工衛星では飽和水蒸気は雲として見えない。
A 雲の動き(台風,熱帯低気圧 (シミュレーション動画))
B 全世界を1度毎にでメッシュで覆い,5,6年かけて作った海洋モデル(左図)
スナップショットシミュレーション(ある瞬間,南半球が夏のとき),太陽のエネルギー,塩分の濃度等観測地として海の中を計算→黒潮:風成,たくさんの渦がある。メキシコ湾流(ガルフストリーム)がグリーンランドに当たり,アイスランドに影響。このメキシコ湾流が温暖化で弱まるとニューヨークが凍るというザ・デイ・アフター・ツモローの予測は間違い(温暖化で氷河期はこない)。ケープタウンで年に1個の渦(アギュラスリング)ができ,熱の輸送に大きな影響を与えていることが分かった。大西洋は南から北へ一方向へ熱が移動するが,太平洋では鏡像のように南北対称(南オーストラリア海流と黒潮の関係)。
C 南極褶曲流に暖かい海水が盛り上がっている(数cm)。喜望峰の先端から熱が運ばれてヨーロッパまで行く→0.1℃の高解像度のシミュレーション(シミュレーション動画)
D 温度予測(シミュレーション動画) 10年平均すると2030年頃には流氷が消える。海水が見えているということは10℃以上の上昇。
E 北極海の氷シミュレーション動画) 9月の値を示した。2040年でなくなる
F 永久凍土が溶けていく → 復元できない。2040年に急激に減る。氷河期に向かっているのは嘘→IPCC報告書をdownloadすると第六章に古気候がある→温暖化は1章のみ。第六章を十分に訳して伝える研究者は日本にはいない。氷河期は今より2,3℃しか温度低下していない
** 向こう3万年間は氷河期はこない
砂漠地帯に最初に温暖化の影響が出る
【重要】
@温暖化の防止をしても気温は戻らない。シミュレーションで裏付け。
Aマスコミの結果はうのみにしてはいけない 温暖化で氷河期は来ないと言ったら,N社は来なくなった。おもしろくないと読者は喜ばないので,マスメディアでは報道されない。マスコミは数値の大きさの大きいものだけを伝えようとする。特に数値データに注意しよう 
B温暖化の予測は仮説である 将来を予測するための道具は,過去の観察データでどこまで信頼できるか,あくまで仮説。気温上昇結果はこれから30年間はそれほど間違いはない。
 京都議定書 「温暖化防止枠組み条約」→直訳「気候変動に関する枠組み条約」が使われているが,当時95年の訳が間違い。温暖化が防止できると思っていたのだろう。誤解が生じている可能性がある。97年京都議定書 −6%の削減
 運輸の自家用,民政の家庭,業務が30%を越える。熱を使う部分のエネルギー効率が悪い。電気は一次エネルギーの34%しか使えない。
(左ページに続く)
日本では80%の電気が化石燃料→すべて外国依存。温暖化はゼロエミッションにしないと温度上昇は0にならない→200年,300年かけてゆっくりとCO2を吸収するかも。ロシアは温暖化を歓迎→耐え難いレベルが人によって国によって異なる。
CO2排出量と人口増加は関係。
100年後,温度は5,6℃上昇→ 危険な影響 CO2でガンが増える

疑問・誤解を解く → メタボに似ている CO2を増やさない,大幅に削減,最終的には世界中でゼロエミッション → 200年,300年はかかる。
【問題】
@氷河期に向かっている?
A南極は気温が低下?
BCO2は温暖化の原因?
C予測の精度は向上した?
 CO2の発生量を今の半分にしないと放出量とバランスしない → 太った状態が維持されるだけ → 危険な状況にならないようにする → どれくらいのCO2濃度か分かっていない。→エネルギーを供給してもCO2を排出しない方法で解決 → 原子力が有力

気温はゆっくり下がるだろうが,後遺症が残る → 溶けた氷は戻らない
D海面上昇は生じている?
E台風への温暖化影響は?
8月13日(月)午後「エネルギー源の推移と今後」長野浩司 (財)電力中央研究所

【内容】
・車や食品添加物,原子力などの恩恵とリスク間隔のアンケート調査
・地球環境問題と原子力:長野氏の主張
「環境という公共財」の問題 公共財:警察,自衛隊,公園→ほっておくと誰も掃除しない,責任・管理能力はもっぱら先進国にある
・原子力について CO2排出をほとんど伴わないが大きなエネルギー供給能力を持ち得る。原子力技術の維持延命を基本線,より効率的な技術の開発にも努力を
・E/GNPを減らすことが不可欠:原単位 エネルギー消費あたりの成果を増やす
エコキュート:熱を1日使う年寄りや病院は得か。オール電家は昼間いない家は得か。

エネルギー毎の現状
・化石エネルギー資源 石油は富士山の容量もない 1/3×π×10^2×3=3×10^11kl 世界の石油確認埋蔵量は約1兆バレル
10^12bbl×0.159kl/bbl=1.59×10^11kl 最近の予想(米)3〜4兆バレル →1〜2杯くらい 究極埋蔵量はその数倍か?

・ウラン
・再生可能エネルギー源
・エネルギー問題の三大法則

石油備蓄施設(むつ小川原石油備蓄株式会社) 石油の安定供給のため,国家石油備蓄事業がある。鋼製ダブルデッキ浮屋根式タンク11.1万kl(内径81.5m,高さ24m)×51基で日本の9日分が蓄えられている。さあ,立体視してみよう。
8月14日(火)午前
「エネルギー利用と地球環境の推移」丸山康樹 (財)電力中央研究所

【内容】
 IPCCの報告データや地球シミュレータを用いたシミュレーション結果に基づいた講義だった。
人間の活動が大気組成を変化させている→過去1万年の歴史の中で未曾有。
 温室効果ガス(GHGs)濃度が増加←1750年以降人間活動(化石燃料使用,農業,土地利用変化)
 国際的な取組みと科学的知見の整理が必要→危機感の共有が進んでいない 
温暖化防止はできない(悪化をくいとめるだけ)
* 温暖化現象理解ための基礎知識
 温暖化は生活習慣病,気候変化の4つの原因,温室効果ガスと等価CO2濃度,IPCC第4次評価書AR4(2007)の概要
*国連条約(食事量=基礎代謝量→体重一定=濃度一定)では,温暖化防止はできない 
*気候変化を引き起こす4つの原因
@太陽エネルギーの変化(地球軌道変化)
A火山爆発 硫酸エアロゾルによる寒冷化
B温室効果ガスの変化
C地球表面(森林伐採,砂漠化)の変化

IPCC第4次評価報告書AR4"Climate Change 2007"概要
 科学的信頼性が向上!
・平均海面水位は,1961年から2003年にかけて1.8mm/年上昇。主要因は海洋の熱吸収による熱膨張やグリーンランドと南極の氷床現象による可能性が高い。
・水資源は高緯度地域や熱帯多雨地域で10〜40%増加,中緯度乾燥地域や熱帯乾燥地域では10〜30%減少。干ばつ発生地域が増加し,強い降雨減少や洪水リスクが増す。
生態系は全体平均気温の上昇が1.5〜2.5℃を越えた場合,植物および動物種の20〜30%が絶滅のリスクに直面
アジアは南部,東部および東南部のメガデルタ地帯で洪水リスク増大。穀物生産量は東部・東南部で最大20%増加し得る反面,中央部・南部において最大30%減少
温室効果ガス濃度をより低い安定化レベルにするためには,明確な炭素価格提示など政策的なインセンティヴ提供により,早期に排出量ピークを抑え,減少に転じる必要あり
マクロ経済政策,農業政策,多極間の開発銀行融資,保険事業,電力市場再編などの間接的な施策が,排出量を大幅に削減できる証拠が増えつつある
電中研の温暖化予測の結果
・濃度を安定化しても気候変動は止まらない
・熱塩循環は衰退するが,氷河期は来ない
・北極海の海氷が融解する
・凍土融解
・海面上昇には濃度安定化の効果は薄い
・オーバーシュートシナリオは有効


*温暖化が進むと,現在雨がよく降るところはもっと降り,雨が少ないところ(地中海性気候や乾燥した内陸部)はもっと降らなくなる。しかも気温が上がるので,穀物地帯の砂漠化が生じる。しかし,南極は降水(雪)量が増えるので,海面上昇を下げる。
8月15日(水)午前
「日本のエネルギー政策とエネルギー教育」長州南海男 常葉学園大学

【内容】
・ガソリン原油価格ー長期石油価格の不確実性(1971年1〜2ドル→2005年67.29ドル),LNG価格,ウラン価格も値上がり→エネルギー・経済・環境
○ ニュートン2007.8より
京都議定書(1990年)の目標を+7.8%上回る
100年後は1℃上昇,東京は3℃上昇(北米やユーラシの温暖化,ギリーンランド,北米メキシコ湾岸起き寒冷化)
世界の海面:100年間で17cm上昇,山岳氷河縮小,北極の氷の縮小
CO2濃度は産業革命前には280PPM→2005年には379PPM,メタン・一酸化窒素濃度増大
・IPCC(4つのシナリオ)北半球の高緯度ほど急激に温暖化,日本も含む東アジアで3.3℃上昇(A1Bシナリオ)
CO2排出量 2002年→2030年
世界は1.6倍,日本・韓国・米国・カナダは横這い,中国・インドは2.2倍

○米国のエネルギー政策
・2005.8 エネルギー政策法
 国内の供給能力拡大と供給国との関係強化
・2006.1 一般教書演説
石油依存・通等依存からの脱却,エネルギー源の多様化
・2006.2 国際エネルギーパートナーシップ:核燃料サイクル,高速炉開発
○国内における対応策強化
省エネ推進,原子力の推進,石油依存度への提言,資源確保,市場制度改革および産業育成,技術開発
○エネルギー環境教育の必要性とありかた
1)高度な核技術(情報)社会,不確実性・リスク社会,3Eトリレンマ社会
2)唯一正解指向の学校教育からイシューズ(意志決定)指向の学校教育へ
3)エネルギー環境教育の必要性とあり方-新しい教育としてのイシューズ指向の教育-
4)ワークショップ:3Eトリレンマへの意志決定としてのトレードオフ教材
* 確実性ー知識集約ー唯一正解

基本的理念:イシューズ指向
 消費から削減
 過去に戻る未来
 持続可能な世界
 次世代への原世代の責任
 ローカルとグローバル


・ワークショップ Mission  Possible
NEEDプロジェクトを基に,日本のエネルギー基本データを修正
 
 3Eトリレンマへの意志決定としてのトレードオフ教材
 エネルギーを生み出す様々な発電所

エクセルシートで発電量やコスト,CO2排出量を抑える計算を行った。下に足利の作成例を示す。
Mission  Possibleなエネルギー計画例(長洲氏の演習)
施設数 容量 設備容量 コスト 発電コスト CO2排出係数 二酸化炭素排出量
既存の発電所 50 1000 6400 430
石炭 1 25 25 5.7 142.5 0.975 24.375
石油 0 25 0 10.7 0 0.742 0
天然ガス 0 25 0 6.2 0 0.608 0
原子力 5 20 100 5.3 530 0.022 2.2
水力 3 13 39 11.9 464.1 0.011 0.429
地熱 2 10 20 16 320 0.015 0.3
風力 3 5 15 13.1 196.5 0.029 0.435
太陽光 1 5 5 66.7 333.5 0.053 0.265
合計 64 1204 8386.6 458.004
6.965614618 0.380401993
達成目標 1200千kW以上 7円/kWh以下(設備容量あたりの値) 0.390kg-CO2/kWh以下(設備容量あたりの値)