ティミ

 ツアー仲間のHさんは、ネパール語ができる。山が好きでもう何度もネパールに来ているという。そんな彼女が、焼き物の町ティミに行くという。「サバイバルだよぉ。行ってみる?」という誘いに、私ともうひとりのツアー仲間はのった。3人でバスターミナルに向かう。

 日本のようにバスに行き先が書いてあるわけでもない。何系統なんて表示もあるんだか?ないんだか?
ターミナルで「ティミ!ティミ!」と叫ぶと、車掌のお兄ちゃんたちが、あっちだ乗れ乗れ、こっちだ乗れ乗れと、手招きしてくれる。「ほんまかいなぁ〜。」って感じたけど、乗り込んで、一番後ろの席に陣取る。満員のお客を乗せ、バスは走り出す。ガイドブックによると、ティミまで20分くらい。カトマンドゥの町ではバス停らしきものが見あたらない。な〜んとなく人がたまっていて、そのあたりに来ると車掌のお兄ちゃんが、バスの扉を開け何か大声で叫ぶ。「乗るか?どうする?」とでも、言ってるのかなぁ?

 さぁ〜て、そろそろ20分くらいたったんだけど、ティミってどこ?
沿道に何か案内板があるわけでもない。全くわからない。Hさんが「指さしネパール語」なる本片手に、隣り合わせたお兄ちゃんに聞くが、どうしてだか、その本のほうに興味津々のお兄ちゃん。読ませてくれとなかなか手放しそうにない。運良く、前の席に座っていたおじさんが自分もティミに行くから、近くなったら教えてあげるという。ここでまた「ほんまかいなぁ〜」なんだけど、もう信頼するしかない。

 JAPANESEの女3人がバスに乗り合わせているんだもん、みんな興味津々。気にしてないようで、気にしてるんだなぁ。小一時間も走っただろうか。あっちこっちから「ティミ!ティミ!」と声がかかる。ティミに着いたらしい。こうして私たち3人は、どうにか村の入り口にたった。

 さぁ、これからどっちに行く?
 目指すは、ガイドブックに載ってっている焼き物がずら〜っと並んだ風景だ。とにかく村なかに入っていこう。ちょっと昔の日本の田舎道と大差のない風景。のどかだぁ。土のにおいも空気のひんやり感も何もかもが、GOOD。霧の中から、ぽっぽっと人がわいてくる。子どもたちのざわめきも聞こえてくる。近くに学校があるようなのだが、何しろ霧が深くてどこを歩いているんだか??しだいに村はずれの様子を呈してきた。オイオイ・・・。天秤棒をかついでやってくるおじいさんに、道を訪ねる。「ティミ?」「ティミ、ティミ」「サノ・ティミ?」「ティミ、ティミ」。手振りと「ティミ」だけの不思議な会話。とにかく、どんどん行けという。ますます細くなる道。心細くなって引き返すと後ろからついてきたあのおじいさんが、また、行け行けという。おじいさんに押されるようにして私たちは村のはずれにきた。とにかく人の出てくるほうに行こう。道の様子も確かめながら。レンガ敷きになっているってことは、きっと街道に違いない。そのうちぱっと切り開かれた空間が見えた。おっ!行ってみようじゃない。・・・と、目をこらして見ると、霧の中に2つ3つの黒い四つ足動物の影が・・・。犬・・・??いや、猪だぁ!!野生の猪があっちにも、こっちもいる。やばぁぁい!!猪と仲良くするすべなんて知らない。こりや立ち入らないに限るかも。私たちは、とっとと元来た道を引き返した。今度こそおじいさんに会わないことを願いながら。

                  

 「学校に行ってみよう。」子どもたちの声のする方に歩き出す。声は霧の畑の中の森らしき方から聞こえてくる。どろどろの山の斜面を滑りながら登りつめたら・・・なんと、小さな村が姿を現した。後でわかったのだが、ここがサノ・ティミだった。(左の写真)私たちは村のずっとはずれのほうからバスを降り、回り込んできたらしい。

 やれやれ・・・ほんとにサバイ゙ル。サノ・ティミは、何世紀も前から時が止まっているかのような構えの村。陽がほどよく高く登ってくると、村の広場に人々が集まり、藁打ちだろうか?作業がはじまる。この風景もまた、何世紀も前からさほど変わってないんだろうなぁ。ここで1時間ほどスケッチする。入れ替わり立ち替わり、村の女性や子どもたちが手元をのぞき込みにやってくる。ときどき目があうとはにかむようにして、去っていってしまうところが、またいい。

 で、あのガイドブックの風景には出会えたかって?
そ〜んなです。けっきょく、探せなかった。今も謎です。あの町はいったいどこ?