理科におけるフラクタルとカオスの実践
筆者は8年前から、教育用インタプリッタ言語Pre-Cを用いた「自然の造形」を元にした理科教育
の実践を進めてきた。以下にその要約を報告する。 1 コンピュータの活用の意図 自然界の法則や原理、規則性と知識情報としてプログラムに組み込み、諸現象を再構成する表現
や創造ツールとしてコンピュータを活用する。このときコンピュータは生徒の科学的探求のツール となる。プログラムのエディティングやデバッギングの作業を通じて、生徒は探求を深め、学習を
強化し、科学的態度を養うようになる。 2 教科学習とプログラミング言語 教科内での限られた時間で利用するため、言語は次の性質を満たす必要がある。
(1) 短時間で修得できる、直感的にわかりやすい、数少ない命令で構成されている。 例:タートルグラフィックス、自然言語
(2) 手軽に使えるインタプリッタ型で、すぐエラーメッセージが返ってくる。 (3) 起動までの時間が短く、すぐ実行できる。
(4) コンピュータの台数分必要なので、安価である。 3 自然の造形との比較 自然界に見られる様々な形態は、単位となる基本構造の繰り返しが多い。例えば、分子構造を反
映したミクロな単位格子の積み重ねが、マクロな形で現れるものが結晶であり、細胞を単位とした 器官で構成されたものが生物である。また、木や海草の枝のように、分岐構造をもって成長するも
のも多い。これらは、再帰を利用したフラクタルで表現される。もっと大きな視点で見ると、山肌 や海岸の地形もフラクタルである。
授業では、各時間ごとにコッホ曲線、二分木、雪の結晶のようにテーマを決め、その構造を生成 する法則(成長の割合、方向、対称性等)を検討させた。生徒はその法則をプログラムに記述し、
実行して現れた図形を各自の図説や図書館の文献と比較し、さらに法則や条件を制御して、自然の 形態に近づける編集作業を繰り返した。生徒はこの作業を通じて、同じ法則での繰り返しが、成長
や種の維持に有利であることや、単純な構造が自身の修復に好都合であること等、を学んだ。 ま た、作品には相当する事物の名前を付けて保存した。
4 生徒の反応 フラクタル図形では、生徒は自身で調べ、創造した法則が、短いプログラムで自然のリアルな構 造を表現することに興味を持った。発表作品の制作には意欲的に取り組み、互いの作品を提供しあ
い、生成の条件や法則等の議論がみられた。各授業で作成した花弁や分岐の枝、らせんの蔓等を組 み合わせ、朝顔」と名付けて植物の総合的形態を学んだ作品や、星やコッホ曲線の林、稲妻等の植
生や事象を組み合わせた「月夜の森」等があった。 カオスでは、自然界の少しの条件変動が、 大きな変化を引き起こすことに驚きながら、自然界には安定な条件の範囲があることを、画面に現
われる図形の観察を通して興味深く学んだ。生徒は変数の符号を逆にしたり、数値の桁数を大きく 変化させたりし、周囲の生徒と競争しながら知的作業を楽しんだ。生徒作品は学校祭で展示した。
参考文献: Hiroto Ashikaga,Efficient Use of Microcomputer in Science,Proceedings
of CET'96 Pre-C Refferrence Manual 美多スタジオ(金沢市)