お茶の冷まし方(2007年実施センターテスト物理 問4のC)の実験と数式による解法 | |
熱や温度について正しく理解していないと解答できない問題が出題された。受験技術にはない良問である。実際どうなるのか実験し,また,定量的な値と比較するため,数式による解法を求めてみた。 | |
【結果】 初めの湯の温度 66℃ 室温 21℃ 問7の方法でお湯を片方の茶碗へ移し,1分後に元の茶碗へ移して測定。 戻した直後 Aの方法: 43℃ Bの方法: 46℃ この後1分毎に測定したが,3℃の差のまま15分間温度は下がっていった。 |
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【解法】 方法A,Bで用いる各湯飲みの熱容量をCc,水の熱容量をCw,最初の湯飲みの温度(室温に等しい)を試験問題に合わせてT1,最初のお湯の温度をT0とする。 1 方法A 最初の操作で,1つめの湯飲みとお茶の温度がTa1になったとすると,1つ目の湯飲みが受け取った熱量Qca1は, Qca1=Cc(Ta1−T1) 注いだお湯が失った熱量Qwa1は, Qwa1=Cw(T0-Ta1) 熱量保存の法則よりQca1=Qwa1となるため, Ta1=(CwT0+CcT1)/(Cw+Cc) したがって,1つ目の湯飲みが受け取った熱量QAは, QA=Qca1=Cc((CwT0+CcT1)/(Cw+Cc)−T1) =CwCc(T0-T1)/(Cw+Cc) となる。 次に,このお茶を2つ目の湯飲みに移したとき,湯飲みとお茶の温度がTa2になったとすると,2つ目の湯飲みの受け取った熱量Qca2は, Qca2=Cc(Ta2−T1) 注いだお湯が失った熱量Qwa2は, Qwa2=Cw(Ta1-Ta2) 熱量保存の法則よりQca2=Qwa2となるため, Ta2=(CwTa1+CcT1)/(Cw+Cc) =(Cw2T0+2CwCcT1+Cc2T1)/(Cw+Cc)2 これがTAである。 2 方法B 2つの湯飲みは同時に同じ温度のお茶を同じ量注ぐため,同じ温度になる。初めにお茶を半分注いだときの湯飲みとお茶の温度がTb1になったとすると,1つの湯飲みの受け取った熱量Qcb1は, Qcb1=Cc(Tb1−T1) 注いだお湯が失った熱量Qwb1は,方法Aの半分の量のお湯を注ぐため,水(お茶)の熱容量が半分のCw/2になり, Qwb1=Cw/2(T0-Tb1) 熱量保存の法則よりQcb1=Qwb1となるため, Tb1=(CwT0+2CcT1)/(Cw+2Cc) 次に,このお茶を2つ目の湯飲みに移したとき,2つ目の湯飲みは,1つ目と同じ条件ででお湯が注がれているため,お茶の温度は1つ目と同じままのTb1である。これがTBである。 空になった湯飲みが失った熱量QBは,1つ目の湯飲みが受け取った熱量Qcb1なので, QB=CwCc(T0-T1)/(Cw+2Cc) となる。 したがって, QA−QB=CwCc2(T0-T1)/((Cw+Cc)(Cw+2Cc))>0 ∴ QA>QB ∵T0は最初に加熱したお茶の温度であり,T1は室温だから。 TB−TA=CwCc2(T0-T1)/((Cw+Cc)2(Cw+2Cc))>0 ∴ TB>TA これらを満たすのは選択肢のBである。 ちなみにCwとCcの比は水と湯飲みの熱容量の比であり,質量が同じときは約4.2:0.9である。また,T0=66℃,T1=21℃の値で計算すると, TA=47℃,TB=52℃ となるが,実際は周囲へ熱が逃げていくため,これらの温度より小さな値になる。 |
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【解法】 冷却曲線は図5のように温度が指数関数的に減少するため,最初温度の値が大きく減少しているときは,大量に湯飲みや空気中に熱が移動するが,室温に近づくにつれ,熱の移動は鈍化し,グラフはだんだん一定値になる。このため答は@になる。 では,式を導出してみよう。 「ある量(ここでは室温との温度差T-T1=T’)の変化の速さ(物理量の時間変化)が周囲の量に比例する」というニュートンの式より,比例定数をλとして, -dT’/dt=λT’ この式は変数分離形にして積分するとよい。 dT’/T’=-λdt ∫dT’/T’=-λ∫dt ∴ lnT’=-λt+C T’=e-λt+C=e-λteC t=0でT=T0とすると, T0-T1=eC したがって,図5のグラフの式が以下のように得られる。 T=(T0-T1)e-λt+T1 次にお茶が空気中へ放出した熱量を考える。初めの条件「湯飲み以外への熱の流出はないものとする」とは一見矛盾するが,この条件はお湯を分配した瞬間と捉えるしかない。時間とともに熱はお茶の水面と湯飲みの表面を通して空気中へ逃げていく。 |
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周囲へ時間とともにお茶から逃げていく熱量Q(t)は,お茶の失った熱量なので, Q(t)=CwΔT=Cw(T0-T) ∵ お茶は温度T0からだんだん下がっていくため,お茶の温度変化ΔTはこのようになる。 ∴ Q(t)=Cw(T0-T1-(T0-T1)e-λt) となる。これは@のグラフになる。 |