○こんな実験です 銅線をループ状に曲げ,2箇所でコンスタンタンと接合させ,閉じた回路を作ります。接合部の一方を加熱し,他方を冷却することで,回路に熱電流が流れ,磁針が振れます。 ○こんなことが分かります 起電力が小さくても抵抗が極端に小さいと,大電流が流れることがわかります。また,円形のコイルに生じた電流による磁界や,その向きを学ぶことができます。シンプルな装置なので,原理の学習に適しています。 ○原理 コンスタンタンは銅55%とニッケル45%の合金です。このコンスタンタンと銅のように,異種の金属の接合部を加熱すると熱起電力(約0.02V)が発生します。このとき流れる電流は加熱部と冷却部の温度差に比例します。熱起電力は約0.02Vと低いですが,銅線とコンスタンタン線の断面積が広いため電気抵抗が小さく,オームの法則により大きな電流が生じ,大きな磁界を発生させます。 |
復元した装置でコンパスを動かし,熱電流が流れていることを示す |
|
○準備しよう 銅線(φ=5mm,50cm),コンスタンタン線(φ=5mm,4cm),銀ロウ,アルコールランプまたはガスバーナー,磁針,ラミン丸棒(φ=12mm,50cm),荷造りテープ ○入手先 コンスタンタン:(株)シータスク) ○作ってみよう 銅線をΩ型に曲げ,その根本にコンスタンタンを2カ所銀ロウ付けします。この一端を丸棒に荷造りテープ等で固定します。 ○製作の注意 接合部分が汚れていると溶接がうまくいきません。また,全体を加熱しないと付きにくいです。うまくいかないときは,熟練した職人のいる鉄工所に依頼しましょう。 ・加熱していないときの動画 ・電流の流れているコイル面と磁針の回転面が平行のときの動画 ・コイルの動きを追う磁針 ・電流の向きを逆にしたときの磁針の動き |
島津製作所製の熱電流実験器(昭和2年旧制姫路高等学校(現神戸大学)購入) 150A〜300Aの電流が流れ,5kgの砲弾を持ち上げることができる 加熱中の実験映像(磁束計の映像も含む) |
|
なんと絶縁なしで鉄心に埋め込まれる。それだけ銅棒の抵抗が少ないのだ。 |
コンスタンタン線の間近まで鉄心が来ている。鉄心の熱容量を利用しているのか。 |
|
鉄心をはずして,台に設置したところ。 銅棒に打ち込んだ針は,コンパスを取り付けて,熱電流が発生して磁界を生じることを説明するためのもの。 電池を使わずにオームの法則を学習できるすばらしい教材である。 |
ついに5kgが上がることを証明。先人のアイデアはすばらしい。協力いただいた神戸大学理学部,発達科学部中川和道教授に感謝します。 持ち上がった映像 |
|
さあ,復元してみよう! | ||
上:コンスタンタン,下:銅 |
銀ロウ付け溶接の様子 |
|
磁針のS極の上に,磁針の回転面に平行にコイル面を近づけていくと,磁針に入っていく磁力線と,コイルの磁力線の向きが逆になり,磁針は反発する。 |
全体の形状 |
|
円電流(円形電流)の中心の磁界は,ビオ・サバールの法則によって計算される。 磁界の強さを測ることにより,コイルを流れる電流を計算することができる。 |
||
○開発の経緯 平成18年12月に,神戸大学百周年記念館において,「神大科学教育の源流」展が開催され,旧制姫路高等学校で使用されていた大正末期から昭和初期に使われた物理実験器具が展示されました。当時の技術が精度よく,しかも大胆な発想で原理を剥き出しに表現した機器が多いのに感動しました。またこの時代は,科学史的な価値や,実用的色彩の濃い物理教育を指向した,科学の輝いた時代であったことを実感しました。この熱電流実験器のように,熟練した職人の力を借りながら機器の復元を行い,ブラックボックスに囲まれた時代に,シンプルでダイレクトに原理を実感できる教材を増やしたいと思います。 |