CDのピットに関する教科書の誤記について

      鳥取県教育センター 足利裕人

1 はじめに

CDのピット(pit)は穴,へこみ等と訳されるが,CDの読み取り側からすると,突起を読んでいることになる。しかし,高等学校情報の各社教科書を調査してみると,写真や図,文章表記に関して穴,へこみにレーザ光を充てているように読み取れる記述が多い。

2 ピットと読み取りの原理

 製作上は,型から取り出した樹脂のディスク(透明基盤)にはピットのへこみが作られ,薄いアルミ層がメッキされる。さらにその上に薄い保護膜を付け,ラベルが印刷される(参考文献1のp.7071に,CDの詳しい製作方法が図示されている)。CDに記録された信号を読むときは,透明基盤側から読むので,へこみの方が距離的にはランドより近く.突起を読んでいる。ピットを読み取り面のへこみとしてとらえると,印刷されたラベル面側からの読み取りになり,不可能である。

 レーザ光は対物レンズで集められ,透明基板に入る。このときのレーザポイントの直径は,ピットの幅0.6μmの3倍くらいのスポットになる。光がランドに当たっているときはそのまま反射し,光検出器にもどる。しかし,ピットに光があたると約半分はピットを照らし,ピットの深さの約0.13μmの往復分ランドに当たる光路長は長くなる。これが透明基盤中の半波長の長さに相当するので,ピットとランドの反射光がキャンセルし,弱い反射光になってピットとランドが読み取れる。

3 各社の教科書の比較 

高等学校情報の各社教科書のうち,CDのピットに関する記述があるのは8社であり,情報A,B,Cに分けると全部で16冊に記述されていた。このうち,記述に関して判定できるのは13冊である。表の正誤欄に,正しく記述されているものには○,図や写真と文章の記述が矛盾しているものには△,間違ったイメージを与えるものには×を付した。判定した13冊のうち,○は3冊の23%,△は2冊の15%,×は8冊の62%であった。

表の列見出しの社は教科書会社,A,B,Cはそれぞれ情報A,B,C,記述カ所は教科書の口絵,本文などの別,写真はピットが掲載された写真,図はピットや読み取り方法が示されたもの,文章は記述カ所に書かれたものを示した。各社の特徴を以下に記した。      

A社:写真ではピットの凹凸が不明だが,図が正確である。

B社:情報Aでは凹凸に触れず。情報Bでは口絵に読み取り面の写真があり,ピットが凸で表現されている。         

C社:情報Aでは読み物として1頁を用い,参考文献1のp.57の図が使われている。しかし,情報Cでは本文のピットの記述が凹になっている。同じ社なのに本文の記述でピットの凹凸が反対である。

D社:ピットとランドを同じ大きさに描き,ピット部分を指す矢印の位置がずれ,情報A,Cで逆になっている。

E社:情報A,B,Cとも写真は凹のピットになっている。

F社:ピットをくぼみと表現している。

G社:図が不鮮明で判読できない。

H社:写真は凹のピット。情報Bでは凹のピットにレーザ光線を当て,回折光まで作図されている。       

4 おわりに

 ピットの訳から,穴のイメージが強いのではないか。しかも穴の部分を大きく拡大した電子顕微鏡写真まで掲載している社もあり,生徒に穴のイメージを強調させるであろう。ピットが凹になった写真は,上下逆にすると凸に見えるものも多く,上下関係の整合性も再確認の必要がある。問い合わせした社からは,ピットの写真の入手が困難であると聞く。しかし,教科書を作る側の人間は,慎重で正確でないといけない。また,文部科学省の検定を見逃される内容ではない。各社早急な対応をお願いしたい。


参考文献

1 見て分かるパソコン解体新書 vol.4 大島篤 SOFTBANK2,高等学校情報A,C 第一学習社,3 高等学校情報A,B 開隆堂,4 高等学校情報A,B,C 啓林館,5 情報A,B 清水書院6, 情報A,C 実教出版,7 情報A,B 数研出版,8 情報B 教育出版,9 みんなの情報A,C オーム社

参考URL 叶ク工技研光ディスク金型事業

http://www.seikoh-giken.co.jp/company/hikaridisk.html

  各社のピットの記述

A,B,C 記述カ所 写真 文章 補足 評価
B 口絵 ピットの図が小さくて
、凹凸は不明
CDの下面から凸のピットにレー
ザー光を照射
レーザー光線をピットにあてる。ピットがあるかないかによって、反射する光に変化が生じる。この変化を電気信号に変える。
A 本文 データはピットと呼ばれる光の反射率が異なる部位を記録面上に作ることにより記録される。したがって、データの取り出しはCDにレーザー光線をあて、その反射率を検出することにより行われる。
B 口絵 読み取り面に凸のピット 音声情報は盤面上の、反射率の異なる微小な部分の長短として記録されている。
A 読み物 CDの透明樹脂層を上にし、凸のピットに上からレーザー光を照射 反射層の表面には、ピットとよばれる突起が同心円状に無数に並んでおり、ピットの有無によって情報を記録する。 1ページを取って詳しく記述
C 本文 読み取り面に凸のピット CDの下面から凸のピットにレーザー光を照射 片面にピットという、非常に小さい凹みがある。この面にレーザー光を当てると、反射の仕方によってピットがあるかないかがわかり、これをディジタル情報として読み出すようになっている。 写真や図は正しいが本文が間違い
A 図のキャプション。本文より詳しい CDの下面から凹のピットにレーザー光を照射 ピット(小さなくぼみ)のあるなしによって情報を表す。ピットのあるなしはレーザー光線をCDの下から当てて、その反射の違いによって読み取る。 図の矢印の位置が間違い ×
C 同上 CDの下面から凸のピットにレーザー光を照射 同上 図は正解だが本文が間違い
本文 読み取り面に凹のピット CDでは無数の小さなくぼみの配置と長さで数値を記録している。 ×
B コラム 同上 CD-ROMの表面には写真のように小さい溝が並んでいる。この溝が「0」と「1」のピット列の状態をうまく表すよう工夫している。 ×
C 本文 同上 CDプレーヤではディジタル化した情報にレーザ光線を当てて読みとる ×
A 本文 CDではピットとよばれるくぼみの有無で記録する ×
C 本文 真上からの不鮮明な図。凹凸の判読不能 CDではピットとよばれるくぼみの「なし」「あり」で1と0を区別している。 ×
A 図のキャプション 同上 物理的凹凸で記憶されている。
B 同上 同上 同上
A 本文 読み取り面に凹のピット ピットの存在のみを示す図 CDの表面には、ピットとよばれる小さい溝がとびとびにあいていて、それによって1か0かを表している。CDから情報を読み出すときはCDの表面にレーザ光線をあて、溝があるかないかで光線の反射される光の強弱を読み取る。 ×
B 本文 同上 凹のピットにレーザ光を当て、回折光が描かれている CDは円盤状の媒体の片面に、凹凸のある反射面とそれを保護する透明の膜があり、そこにレーザ光線を当て、反射光の強弱によって情報を読み出す。 回折線を描き,誤解を強く招く図 ×