蛇腹式大型カメラ


○こんな実験です
メラの語源は「カメラオブスキュラ」です。カメラは「部屋」、オブスキュラは「暗い」で、つまり「暗い部屋」を意味するラテン語です。暗い部屋の壁にピンホールから差し込んだ外の光が像を映し出していたのが、初めのカメラオブスキュラです。16世紀にはこれが箱式になり、フランスの画家たちが紙に映った像を鉛筆でトレースするために使用していました。 これがレンズ式になり、明るい像を得ることができるようになりました。

○原理
大きな部屋の壁に映し出すには、焦点距離の長いレンズが必要です。ここでは1200mmの焦点距離を持つ望遠鏡の対物レンズを用い、胴体を蛇腹にして移設が簡単にできるものを作りました。また、大きなスクリーンに明るい像を写すためには、多くの光を集める、口径の大きいレンズが必要です。

青谷高校物理室より、東崎線を覗いた像。上下左右が逆になっている。
○準備しよう 
凸レンズ(焦点距離の長い、口径の大きいもの。ここで使用したのは焦点距離1200mm、口径80mm),ベニヤ板、角材、丸棒(1.5cmφ×130cm)、厚紙(黒)、スクリーン用半透明ブラスチック板(ダイソーで購入)、暗幕(1m×2m)、プラスチックパイプ(1.5cmφ×100cm。8等分して使用)、両面テープ、タッカー、布粘着テープ(黒)、木工ボンド、のこぎり、電動ドリル
五藤光学製屈折式望遠鏡用対物レンズを使用
○作ってみよう
@ 黒の厚紙を蛇腹折りします。蛇腹折りは、小さな紙袋であらかじめ練習しておいた方がやりやすいです。大きな四角錐状にしたので、これがなかなか大変な作業です。折り目をしっかり付け、弱い部分は布テープで補強します。
A 磨りガラス状になったプラスチック製のスクリーンを、両面テープであらかじめ組んでおいた木枠(あらかじめ15mmの錐を使い、四隅に穴を空けておきます。この穴にプラスチックのガイド用のパイプを固定します)に貼り付けます。
B レンズを丸い穴を空けたベニヤ板にネジで固定します。固定金具やネジは、望遠鏡の筒に取り付けてあったものを流用しました。
C 蛇腹をタッカーでレンズ側と木枠に貼り付けます。
D 四隅のパイプに丸棒を通して完成です。
スクリーンの様子。4隅の丸棒は、自由に移動できるように、パイプの中を通している
蛇腹を縮めたところ。こんなにコンパクトになり、移設が楽です
○観察の仕方 
近くの物体を見るときは蛇腹を延ばし、遠くの物体を見るときは蛇腹を縮めます。遠く(距離が無限大∞)の物体は、ちょうど焦点距離の位置に像を結びます。
スクリーンに写った像は暗いので、暗幕をかけてスクリーンに部屋の光が乱反射するのを防ぐと、明るい像を得ることができます。

○気をつけよう
ぜったいに太陽の光を入れないようにしましょう。また、太陽のあたる位置にレンズを裸にしたまま置かないようにしましょう。火事の危険性があります。

○開発にあたって
鳥取県には伯耆町に植田正治写真美術館があり、
郷土出身の世界的写真家・植田正治氏の作品が展示されています。映像展示室には、カメラ内部にいるような感覚が体験できる最大直径600mmという世界最大規模のカメラレンズ(2群・5枚構成で、5枚のレンズの総重量は245kg、鏡胴部を含めると625kg)があり、このレンズの焦点距離は8,400mm、F値32、画角21度、反対の壁面に映しだされる映像は直径7mにも及びます。この映像展示室そのものがカメラの内部構造となっていて、光学的な基本原理を知ることができます。被写体は、もちろん大山です。逆さ富士がご覧いただけます(植田正治写真美術館のWeb参照)。
当初カメラの中に入って観察するような大きな箱を考えました。しかし、設置や保管場所に困るのと、それだけの焦点距離を持ったレンズは、安価には老眼鏡しか入手できません。しかも普通に入手できる単レンズでは、色収差や球面収差が大きく、カメラのレンズレンズでは焦点距離(カメラの大きさ程度)をかせぐことができません。
たまたま物理室に捨てずに残していた廃棄用の口径80mmの対物レンズを備えた屈折式望遠鏡を私が捨てずに残していました。試しにカメラのレンズとして使うと、周辺もきれいに写っていました。もちろんアクロマートですので、色収差はありません。