歩けぬりかべ


○こんな実験です
柳田国男の「妖怪談義」によれば,塗壁は筑前(福岡県)遠賀郡の海岸に出たことがあるという妖怪です。夜道を歩いていると急に行く先が壁になり,どこへも行けなくなってしまう。棒で下を払うと消えるが,上のほうを払ってもどうにもならない。でも,下から30センチの所から持ち上げるようにすると消えると言います。
鳥取県境港市出身の漫画家水木しげる氏も,ラバウルでこれに似た体験をしたことがあるそうで,この妖怪を描きました。
ここでは,この愛らしいぬりかべの歩きを再現し,二足歩行をするおもちゃのしくみを調べ,エネルギーの関係を学びます。

○こんなことが学べます
歩くという運動は,振動の一種であり,摩擦によって振動が減衰するため,斜面を降りるように,位置エネルギーを与える必要があることが分かります。

○こんな仕組みです 
二足歩行をするためには,交互に左右の足を前に出さないといけません。ぬりかべの足の裏は左右側面が丸く削られているため,身体を左右にヤジロベエのようにゆらします。このことにより,交互に左右の足が持ち上がります。また,足の裏が丸く削ってあるため,斜面をこの丸みに沿ってぬりかべがころがり,前かがみになります。このとき,地上を離れた足が振り子になって,前に降り出されます。降り出された足が着地すると,左右の足が入れ替わって上記の動作を行います。
運動を持続させるエネルギーは,斜面を持ち上げたためにぬりかべが持った,重力による位置エネルギーです。

斜面を歩くぬりかべの動画(MPEG2)

斜面を歩くぬりかべの骨格の動画(MPEG2)
○準備しよう 
板材(10×30×1.2cm),竹ひご(直径3mm,長さ70cm)2本,おもり用006P乾電池2個,斜面用の板(長さ1m程度),ボルト,ナット数個,凧糸,厚紙,発泡ポリスチレンの固まり(10×4×3cm),木工ボンド,セロハンテープ,ドリル,ノコギリ,平やすり,はさみ

○作ってみよう
@ 組み立て図のように,厚さ1.2cmの板をノコギリで切断します。
A 足は適当な日本語がないため,股関節から足首までをleg,足首から下をfootとします。legは竹ひごを通して回転させるための,直径4mmの穴をドリルで開けます。footは平やすりで進行方向前後(指とかかとに相当)と外側(footの側面図参照)を丸く削ります。これによって,前後の回転,左右の回転ができるようになります。legとfootは左右間違えないようにして,木工ボンドではり合わせます。
B 胴体下部に直径8mmの穴を,ボルトが通るように開けます。両側面には,足の穴を通して竹ひごを固定する直径3mmの穴を開けます。
また,足の回転のストッパーとするため,足の固定部分の上部は,斜めに切っています。
C 足の穴に竹ひごを通し,胴体側面の穴に固定します。足が横方向に移動しないように,凧糸を竹ひごに巻いて留めます(下中央の写真)。
D 竹ひごの先におもり(006P乾電池など)をセロハンテープで固定します。
E 胴体下部の穴にボルトを通し,ナットを数個付けて重心を下げます。
F 厚紙でぬりかべの身体を箱状に作ります。内部には,骨組みの上部に箱が乗るように,発泡ポリスチレンの板を加工して入れます(下左の写真)。この身体に腕を付け,小さな目を描きます。

○製作の注意
@ 胴体は,組み立て図の上側が前になります。
A ナットは歩行実験をして,安定して歩けるように数を決めます。
B まっすぐ歩くために,両足の長さをきちんと揃えてください。

組み立て図
○遊び方 
動画を参考にしてください。
1m以上の斜面を作り,ぬりかべを置き,どちらかのおもりを持ち上げてゆらすと歩き始めます。竹ひごの長さによって振動の周期が変わり,歩く速さが変わります。斜面がきつすぎるとすべったり,ころんだりするし,斜面がゆるすぎるとその場で足踏みするだけになります。

○こんなこともできるよ 
ひもの先におもりをつけて引っ張っても前に歩きます。竹ひごの長さを変えて歩く速さを変えることもできます。いろいろ形やおもりを工夫して,より安定して歩くものに挑戦しましょう。
研究発表会での様子(2002年2月 於:岩美高校) ○開発の経緯
2002年の小川春樹,大西正浩(当時青谷高校3年)の課題研究として製作しました。この作品は,平成14年度鳥取県高等学校生徒自然科学研究発表会で最優秀賞に選ばれました。
研究の目的は,「歩くおもちゃの仕組みを調べ,歩行のための条件を調べる」ということでした。初めは重心をどこに持ってくるのが良いか分からず,バランスが崩れてすぐフラフラし,とても歩けるものができるとは思えませんでした。重心を下げるために,おもりとしてナットを数個胴体下部に付けたり,釘で足の回転を抑えるストッパーを付けたりして,安定して歩くための改良を重ねました。誰でも簡単にできるように,部品点数を減らしていくという目標も立てました。例えば,足も初めは釘で胴体に止めていましたが,竹ひごの腕で止めることにより,シンプルになりました。また,足があたる胴体部分を斜めに切断することにより,ストッパーなしで,脚の動作範囲を限定することができました。左右にゆらすためのfootの丸みも,時間をかけていくつも試作しながら調整しました。
一番のポイントは,左右の足の長さです。これが異なると,片側へくるりと回って移動しようとします。きちんと左右そろえる必要があります。
将来的には脚を固定し,ヤジロベー式にゆれながら斜面を下るシンプルで製作しやすいものを考えています。

○参考文献
BLUE BACK Sおもちゃの科学 酒井高男 講談社