二段式すっとびボール
物理の授業では分かりやすい2段で行きます。1mの高さで落とすと上のボールが4mほど上がります。 |
○こんな実験です
「すっとびボール」は塚本栄世氏によって命名され,別名「多段式垂直衝突球」と呼ばれる実験器で市販されています。1968年の論文に,アメリカのハーター氏の講義中に,一人の学生がスーパーボールにボールペンを突き刺して床に落としたら,ボールペンが高く飛び上がったという発見も基づいているそうです。遊びから生まれた実験なのです。
数個のボールを上にいくにしたがって,小さくなるように1本の棒に挿し込んだだけの簡単な構造をしていますが,垂直に落とすと一番上のボールだけが驚くほどの高さまではねあがります。
ここでは原理が簡単で教材として適当な2段式のものを作ってみました。
○こんなことが学べます
運動量(質量と速度の積)が保存されることで,衝突によって上の束縛されないボールが大きな運動量を得て,高くはずむことが体験できます。
○こんな仕組みです
すっとびボールを床に落とすと,床と下のボールが衝突している間に,下のボールの衝突の弾性波が上のボールに伝わり,上のボールをはねとばします。下のボールがあまり跳ね返らないほど,上のボールは多くの運動量を得ます。
今上下のボールの質量をM,m,落下時の床に衝突する速度をv0,衝突後のM,mのボールの速度をV,v,床との反発係数をe0,スーパーボール同士の反発係数をeとすると, 落下時は自由落下でM,mとも独立して同じ速さv0で落下しています。
下のMのボールが床と衝突すると,衝突後上向きに速さe0Vとなる。しかし,この短時間の床との衝突の弾性波のパルスが上のmのボールに伝わるときは,上のボール球はv0でMに衝突するとすると,
(e0M-m)v0=MV+mv
e=−(V−v)/(e0v0-(-v0))
したがって
v=((e0+(1+e0)e)M−m)v0/(M+m)
となる。e0=e=1の弾性衝突(衝突で速さが変わらないとき)は
v=(3M-m)/(M+m)v0
となり,m<<Mならばv=3v0となって9培の高さまで跳ね上がることになります。スーパーボールでは反発係数は0.9程度あります。串を刺したり,穴を開けることでこの値は0.8程度まで下がったとすると,
v=2,24v0となって5培の高さになります。
直径が3培違うと体積はその3乗の比になるので,M=27mとなります。このとき跳ね返る高さは約4培になります(ちなみに速さが2倍になると運動エネルギーが4倍になり,これが位置エネルギーとなるため,,高さが4倍になります)。
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錐で穴を開ける。中心にむけて慎重に
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○準備しよう
スーパーボール(大(直径6cm程度),小(直径2cm程度),銅管2mmφ程度4cm,錐(きり),ドリルの刃4.6mmφ
○入手先 スーパーボール:ダイソー,銅管:ホームセンター
○作ってみよう
@ まず錐で大きいボールの中心に向かって慎重に穴を開けます。穴開けのときに割れやすいので少しずつ開けましょう。これに4cm程度の長さに切った銅管をペンチで強く差し込みます。
A 小さいボールに錐で穴を通します。より割れやすいので慎重に。
B ドリルの刃を少しずつ替えながら穴を広げていきます。
C 小さいボールを大きいボールに刺した銅管に通して完成です。 |
ペンチで銅管をボールの中心に向けて差し込む。あまり深く入れるとはずまなくなるので注意。 |
錐でゆっくり慎重に穴を開ける。あわてると割れやすい
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できればドリルの刃は細いものから少しずつ大きくしていった方がよい
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○製作の注意
大きいスーパーボールに深く銅管を突っ込んだらはずまなくなるので,浅めにしましょう。これはスーパーボールの衝突時の圧縮をじゃまするからだと思われます。
○遊び方
鉛直方向に大小のボールが並ぶように支え,そっと落とします。びくりするほど跳ね上がるので,天井の高いところで遊びましょう。
○こんなこともできます 多段式にすることで,一番上の小球に効率よく運動量を与えると,大変高く飛ばすことができます。挑戦してみましょう。 |
○開発にあたって
使える実験装置が少ないところへ異動したのと,緊縮財政なので,消耗品もなかなか購入できない時代になりました。ここで強い見方は百均ショップ。ポケットマネーで可能な実験器具を作るしかありません。アイデアをひねり出せば,百均ショップは実験素材の宝庫です。
○参考文献
塚本浩司:すっとびボールの研究史,物理教育,49-6(2001)
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