最近子供向けの科学教室が盛んになり、私も「科学遊び広場」をライフワークとしている。理科の教師が市民の中に飛び込んで、生活や健康を守る科学教室を開催することは、大変すばらしいことだ。しかし、いくら子供向けだと言っても、まちがった解説が堂々と大きく表示されていたり、放送されているのは、物理の教師の良心が痛む。中には多くの教師にも長年信じ込まれている間違いもあるし、子供向けの科学の種本に記されているものもある。
分からなければいいのか? 子供は理解できないからいいのか? 「三つ子の魂百まで」とあるように、子供だからこそ嘘はいけないのではないか。
出版・報道にたずさわる方は、もっと専門家によるチェックをうけるべきではないか。
1 1999年7月放映 Fテレビ *ンキッキーズワールド 「ロケットの中でものがふわふわ浮くのは、地球から離れると重力がなくなるから」
訂正を求めたが、私に連絡後訂正するとの返事だった。しかし、この1年間連絡なし。東京都の子供向けのネタ本には、確かに宇宙では重力がなくなるとある。
宇宙船内でものがふわふわ浮くのは、毛利さんのスペースシャトルの実験で多くの方がご存じだろう。しかし、これは宇宙船も、中のものも、重力によって同じ加速度で地球に向けて落下しているからである。ちなみに、遊園地のフリーフォールでは、重力があるのに、落下中はものは浮くのである。ちなみに重力(引力)は、どこまでも届くので、宇宙の天体の運動を支配しているのである。
2 *もしろくても理科 講談社文庫 p.17行 「宇宙には重力はないから、」
作者は記者であり、物理を独学で勉強されたようだ。慣性の法則については、大変よく調べてある。しかし、重力については思いこみだったのではないだろうか。理科の教師によく読まれているらしいが、何人の方が気づかれただろうか。
3 科学の祭典東京大会(1998年8月)科学館 飛行機が浮くのは、つばさの上側は空気の速さが速く、下は遅いため、圧力差が生じるベルヌーイの定理による。
図が添えられており、翼の上で空気分子がまばらになって密度が低くなっている様子が描かれていた。
確かに翼の形ではたらく力を示すには分かりやすい。しかし、飛行機は背面でも飛ぶのである。翼の迎い角や、翼の形状による圧力差、翼から剥離する空気や渦の発生、翼の端で圧力差を解消しようとする空気の動きなど、著名な科学者が何人かかっても理論が困難であった。実際に飛ばしてみないと分からない世界である。
公の場で提示するものは、自分だけの判断ではなく、専門家のチェックを受けて欲しい。
4 サイエンスレンジャーの講習会 6月広島文化会館 ドップラー効果を示す音の波面が楕円になっている
レンジャーが講師になって、子供に科学教室を行っていた際に、音源が移動するときの波面が楕円状に広がっていた。媒質の空気は静止しているので、波面が生じたときの音源の位置から、同心円状に広がらなければならない。以前高校生に波面を描かせたことがあるが、ここは強調しないと誤りやすい部分である。
5 多くの中学校理科教科書(*林館は正しく記述している) 陰極線によって羽根車が回るのは、電子が運動量を持つ証拠だ。
大正時代から、これは待合いだと分かっていたのだが、著名な先生の教科書に載っていたのを多くの教科書がまねたらしい。未だにこの記述は多く見られる。これはラジオメーターと同じ原理で、陰極線があたった側が熱せられて、そこの気体が激しく運動して羽根車の両側で圧力差を生じるからである。有名な科学者の書いた科学入門書にも間違って書かれているのを見かける。自分の専門分野以外は、その分野の専門家にチェックしてもらうべきだ。
6 多くの小・中学校理科教科書(*林館は正しく記述している) 真空鐘の中でベルの音が消えるのは、真空になったためである。
残念ながらフラスコの中の水を水蒸気にして空気を追い出したり、学校のポンプで真空に引いたりした程度では、まだ空気が残っており、音が消えたように感じるのは、ガラスの壁面で音が反射され、外へ透過する割合が減るからである(インピーダンスマッチングの問題)。よく聞いてみると、音は真空鐘内では、結構聞こえているのである。
7 ブロッケン現象の解説
ブロッケン現象は怖くて不思議で興味深い現象としてよく知られている。しかし,1970年代になって,レーザーによる観察でやっと原理が分かってきた。多くの解説書は光輪と同じく回折で説明している。しかし,これは光輪とは偏光や観察される角度が全く異なる。粒の中で何度も反射を繰り返して出てくる後方散乱である(詳しくは「光の鉛筆」鶴田 参照)。外国の解説書は正しく記述されているのに,なぜ日本は右へ倣えして間違えたままなのだろうか。日本の著者は,引用文献を疑ってかかることを教えられていないのではないか。
8 NHK週間子供ニュースの2001年10月6日(土)18:30頃放映されたもの。アルミ缶に熱湯を入れ,ふたをして冷水につけると,缶がつぶれる実験だった。番組では「水の粒がふくらむ」として図まで丁寧に丸い粒がふくらんでいた。しかし,水の分子がふくれる訳がない。水の分子が激しく運動し,速さが速くなり,水分子どうしの間隔も広がるのである。丁寧にイメージ化され,子供たちに間違ったイメージを植え付けてしまった。すぐfax.にて訂正を求めたが返事なし。天下のNHKどうした。
(続く)