樹村みのりさんの単行本発売中!!『彼らの犯罪』(朝日新聞出版社)(2009/03/6発売)
「涙がこぼれたあの一言2009年04月号」(ぶんか社)に『帰り道』が再録されています。
「涙がこぼれたあの一言2009年03月号」(ぶんか社)に『家族の風景』が再録されています。

樹村みのりさん/菜の花畑をいったりきたり
1960年代から1970年代にかけて,内省的哲学的少女漫画を描きはじめていらっしゃった「樹村みのり」さんは,今もお元気だろうか。「セックスしよう」とアッケラカーンの柴門ふみさんや,三歩あるいたらスッコーンと忘れる西原理恵子さんも現代的でいいのだが,樹村さんの作品も,悩める現代の家族や姉妹をはじめ,子ども達から大人まで楽しむことができるものが多いと思うな。僕は今読み返しても瞼が滲んでしまう。
 今までに,ファンレターというものを書いたのは「樹村みのり」さんだけだ。推敲するうちに,自信がなくなって,結局出すのをやめてしまった。あれから30年以上経ってしまったが,HPというありがたい手段ができた。30年遅れのファンレターがわりの「樹村みのりファンページ」を勝手につくることにした。誰も見てくれなくていい(失礼)。ご本人が見てくださらないかな。そして,もっと菜の花畑を読ませてもらいたいな。もっと菜の花ファンが増えるといいな。 
樹村さんのポートレートではない。「Rachel Z」さんというジャズ系ピアニストの2002年のアルバムである。前作ではウェイン・ショーターさんの作品をカバーしていたレイチェルさんだが,このアルバムでは全曲ジョニ・ミッチェルさんの作品をカバーしている。レイチェルさんはショーターさんの作品でピアノを弾いていたし,ショーターさんはミッチェルさんと何度も共演している。樹村さんはミッチェルさんのファンということで,関係が広がっていくのは楽しい。樹村さんの作品を読む時のBGMにいかがだろう。「both sides now」はもちろん,「Carey」,「River」,「Circle game」,「Moon at the window」など,アルバム「Chalk Mark In A Rain Storm」('88)までの作品の中から12曲が収められている。2002年末現在,まだ国内版は発売されていないので輸入盤でどうぞ(その後発売された)。タイトルは「Moon at the window」。作品番号はTONECENTER TC-40242。ジャケットは我慢していただきたい。ジャケットからは想像しがたいのだが,安心して?聴けるアコースティックなジャズ・ピアノ・トリオの演奏である。

題名 収録作品 コメント 出版年月 出版社
「こうふくな話」 雑誌「COM」収録 「火の鳥」を読むために買っていたコミック誌である。これ以前から樹村さんは作品を描かれていて、「COM」に掲載された「おとうと」の手紙にも度肝を抜かれたが、このちょっと感傷的な作品から、僕は完璧に樹村みのりさんのファンになった。 1971年12月 虫プロ商事
「ポケットの中の季節1」 贈り物
見えない秋
菜の花
病気の日
海へ...
カルナバル
冬の花火
跳べないとび箱
最初の短編集である。出来上がったこの単行本を、樹村さんは何度も何度も触ったり眺めたりされていたんだろうなあ。僕も負けないくらい読み返した。得ることと失うことをくり返しながら大人になるんだな人は。名作「菜の花」はもちろん、普通の日では分からないことも分かる「病気の日」も大好きだ。 1976年 1月 小学館
「ポケットの中の季節2」 菜の花畑のこちら側
         @〜B
おとうと
おねえさんの結婚
ウルグアイからの手紙
            他
個性的な女子大生4人組が、菜の花畑の見える下宿先の家族と織りなす、楽しくも時にしんみりするお話3本立てと、COMに掲載されていた、仲のいい姉弟の成長を描いた「おとうと」の手紙には、本当に驚かされた。 1977年 8月 小学館
「雨」
トミィ
風船
トンネル
にんじん
まもる君が死んだ
こうふくな話
翼のない鳥 
初期短編集というサブタイトル通り、1966年の高校生の時に描かれたという「雨」をはじめ、1960年代後半の作品が半数以上を占める。母の愛を求める「雨」は、現在でもあちこちに転がっていそうなお話で、何の表現手段も持たなかった僕の高校時代とは絶望的な差がある。 1977年11月 朝日ソノラマ
「病気の日」 病気の日
海へ...
カルナバル
冬の花火
おとうと
ヒューバートおじさんのやさしい愛情
贈り物
見えない秋
菜の花
早春
髪をアップにされた樹村さんの写真入りという、貴重な自選集かと思われる。「ポケットの中の季節」と重複している作品が多いが、絶交宣言した学生時代の友人から電話があって、その彼女に手紙を出す女の子が、中学・高校時代を回想する形式の「早春」がいいな。現在でも、人間関係に悩んでいる高校生は多いだろうが、「いちばん確かな他人」は大切にするのがいいね。     1978年11月 主婦の友社
「カッコーの娘たち」 カッコーの娘たち
40−0
海の宝石
ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」
わたしの宇宙人
カッコーは、自分で巣を作らず、ヒナを他の鳥に育てさせる。母が神経科の病気で入院していまい、別々に暮らすことになった3人姉妹が、悲しみや喜びと共に愛を求めながら成長していく姿が描かれる。「わたしの宇宙人」は、購読していたビッグコミックに掲載されていて吃驚した。 1979年 3月 講談社
「ピクニック」 ピクニック
ふたりだけの空
風船ガム
雨の中のさけび
エッちゃんのさくら貝
あした輝く星
1960年代に発表された短編を集めたもの。中学時代から高校時代にかけて描かれたものである。近年、ヘルスワーク協会さんが樹村さんの作品集を4冊刊行されたが、それらの作品集には掲載されていない。タイトル作品は、ピクニックに行った話ではない。人の心を洞察し続ける樹村さんがすでにいる。中学生!驚異だ。 1979年 9月 朝日ソノラマ
「ローズバッド・ロージー」 ローズバッド・ロージー
あかるい灰色の家
箱の中の子供
となりの一平君
8月の光
季節の刻み
86ページの薄い本だが、半分以上が天然色刷りで、「季節の刻み」は見開きのイラスト詩。その中に、のちの「菜の花」の原型と思われる作品もあったりする。大人は、子ども達の姿に、大人になる際に自分が捨ててしまったものを見いだすのだろう。 1979年11月 新書館
「トップレディカラーシリーズ 樹村みのり」 箱の中の子供
Flight
病気の日
跳べないとび箱
付録にカラーポスターがついた、A4ハードカバーの愛蔵版である。樹村さんの作品リストと、樹村さんご自身の貴重なエッセーがついている。作品の解説をされているのかと期待するのだが、ここでもほとんど自作は語られない。不思議体験話が2編あるだけだ。描き手から離れた作品は、もう読み手に委ねるしかないということなのだろう。 1980年 2月 朝日ソノラマ
「菜の花畑のむこうとこちら」 菜の花
菜の花畑のこちら側@
菜の花畑のこちら側A
菜の花畑のこちら側B
菜の花畑のむこうとこちら
菜の花畑は夜もすがら
菜の花畑は満員御礼
1970年代半ばに生み出された「菜の花」は、最初からシリーズ化される計画だったのだろうか。寡作の樹村さんなのに、茅ヶ崎時代は超多忙だったものと思われる。その茅ヶ崎時代を含む4年間に描かれた菜の花シリーズが一冊にまとめられている。表紙見開きに樹村さんのサインの入ったこの本を持っている。宝物である。 1980年3月 ブロンズ社
「海辺のカイン」 T海に来た少女
U年上の女性
Vカインの記憶
Wイニシエーション1
Xイニシエーション2
母親と娘の愛情のすれ違いや、成長過程での親と子どもの感覚のズレは、樹村さんが得意とする分野の一つである。「ルイ子さんのメガネ」で描かれた、人との距離や人を受け入れるということについても盛り込まれている。何番目に生まれようがどの子も親は可愛い筈なのに、子育ての慣れ等によって、子どもからみれば愛情の差を感じてしまう。子どもはみんなお母さんを好きになりたいのにね。 1981年5月 講談社
「悪い子」 悪い子
Kの世界
晴れの日雨の日曇りの日
犬・けん・ケン物語@
犬・けん・ケン物語A
犬・けん・ケン物語B
初版とそれ以後の版では装丁者が替わっていて、絵は同じだが、少しカバーの雰囲気が違う。最初の方が好き。「子どもだからそんなに傷つかないと思った?」って、今でもたくさんの子ども達が心で叫んでいるに違いない。その叫びに気づかない大人は多い。早くこの作品と出会うといいのに。「悪い子」は大人が作り出しているのだから。「わたし達は自分自身の心のひずみと闘いながら生きていく」しかないんですね。つらい。 1981年8月 潮出版社
「Flight」 フライト
砂漠の王さま
ピューグルムン
夢の枝えだ
夏の一日
「フライト」の主人公と同じように、僕も学生時代に六本木界隈のアンケート回収のバイトをしたことがある。そんなわけで同姓の主人公の恋が成就することを願うのだが、学生時代の恋を忘れられない女性から相手にされることはない。生きていく上で願うことは大切だが、願いや憧れが叶わないことも多い。片思いや失恋も人生を豊かにするスパイスであるな、僕の場合も。理解してくれる誰かを求め続ける子ども達を描いた「ピューグリムン」は、矢代まさこさんの「ノアをさがして」が思い浮かんだ。 1982年3月 朝日ソノラマ
「あざみの花」 あざみの花@
あざみの花A
あざみの花B
かけ足東ヨーロッパ
マルタとリーザ@
マルタとリーザA
マルタとリーザB
映画「死刑台のメロディ」で有名な「サッコ&ヴァンゼッティ」事件をテーマにした「あざみの花」と、これも映画「パサジェルカ」の影響があると思われる「マルタとリーザ」の、外国を舞台にした中編2作と、絵が描けるといいなあと思わされる東欧旅行記。どちらの映画もビデオで鑑賞可能。冤罪事件や戦争を題材に、人生の意味や人間の尊厳などについて考えるきっかけを与えられる。アザミには独り立ちという花言葉があるようだが、「わたしのするべきこと」を僕はまだ探している。 1982年6月 潮出版
「星に住む人びと」 ローマのモザイク
早春
姉さん
水の町
わたしたちの始まり
星に住む人びと
樹村さんの5年後に僕もローマで団体とは別行動をしていたけれど、残念ながら優しいシニョールには出会うことができなかった。冒頭作品を読めば、誰でもローマに行きたくなるだろう。という異色作はさておき、370円という価格といかにも少女コミック風装丁からはとても想像もできない、自分や他者と向き合う若者が描かれた名作揃いの単行本である。青春1個に1冊どうぞ。といっても入手のためには少し努力が必要だと思うが。 1982年10月 秋田書店
「ジョーン・Bの夏」 ジョーン・Bの夏
夜の少年
水子の祭り
ひとりと一匹の日々
人から嫌われるのはつらいから自分は誰かを嫌わないようにしようといい子を演じていた高校生ジョーン・Bが、自分を見つめながら本来の自己に気づき大人の世界に入っていくお話。ジョーン・Bが憧れていたエレインの本音を垣間見るシーンは、この作品の半年ほど前に発表された「ルイ子さんのメガネ」の中でメガネをかけたルイ子さんが思い浮かぶ。その他の作品でも、傷つくことや本当の自分探しをする女性が登場する。作品の中の彼女たちは痛々しいほどの存在だが、現実の我々の生活でも日常的に多く見られる光景なのだと思う。まず自分を好きになることからすべては始まるということだね。 1983年2月 東京三世社
「歪んだ鏡」 歪んだ鏡
ルイ子さんのメガネ
無花果の木
冬の旅
ジョニ・ミッチェルに会った夜の私的な夢
大人になりゆく女性達が描かれる。他人の心が見えるメガネをかけたルイ子さんのとまどいと自分が重なる若者も多いことだろう。というようなことはさておき、樹村さんは、学生の頃お友達と山陰旅行をされ、鳥取砂丘にいらっしゃったことがあるに違いないとタイトル作を読んだ時に思った。そのころ僕は高校生くらいで、砂丘の片隅に住んでいた。樹村さんとすごく接近していたことがあったんだと一人でうれしがっている。樹村さんは砂丘のてっぺんから海まで歩かれただろうか。もしまだであれば、僕の案内で海までご一緒したいものである。もしかすると、資料を見て描かれただけかも知れないが。 1983年10月 秋田書店
「ふたりが出会えば」 わたしの宇宙人
結婚したい女
ふたりが出会えば
直美さんが行く!
前略同居人サマ
クリーム・ソーダ物語
菜の花畑のむこうとこちら
菜の花畑は夜もすがら
菜の花畑は満員御礼
となりのまあちゃん
定期購読漫画雑誌はビッグコミック・オリジナルだけだが(24年間分保存中)、’70年代後半に、樹村さんの作品が次々掲載されビックリした記憶がある。男性ファンの多いのは、「COM」や「ビッコミ」で出会ったという方が多いからなのだろう。樹村さんの結婚観や男性観がうかがわれるが、イーブンな関係を結婚でも維持しようという姿勢は、多分僕も影響を受けている。連れ合いは、実践が不十分と言いそうだが。これから結婚をしようかという女性には、「前略同居人サマ」を読んでほしいな。娘も読んでくれるといいのだけれど。 1984年2月 秋田書店
「ジョーンBの夏」 ジョーンBの夏
夜の少年
水子の祭り
海の夢
前年に出版された「ジョーン・Bの夏」から,「ひとりと一匹の日々」をはずし,「海の夢」という3枚のイラストが掲載された1冊。豪華上製本の「ジョーン・Bの夏」に対し,半額の並製本仕様である。母なる海から生物は誕生し,彼らの輝やかしい未来を海は夢見ているのだろうか。未発表作品1作との抱き合わせでもいいから,こんな形式でもっと単行本が出版されるとうれしい。 1984年3月 東京三世社
「土井たか子グラフィティ」 土井たか子グラフィティ
となりのまあちゃん
駆け足東ヨーロッパ
ジョニ・ミッチェルに会った夜の私的な夢
映画の中の名場面
5年ぶりの単行本。所属していた組合の支持政党が社会党だったから,違和感はなかったけれど,社会党はなくなり,土井さんが首相になる日は遠そうだ。といいつつ,2002年に土井さんにサインをもらった。「私の作品ではないわよ」と最初は躊躇されたが,樹村さんのサインもいつかもらいますのでと頼んだら,ご自分で筆を出され,机のあるところまで移動され書いてくださった。現在はどうあれ,土井さんが,女性に大きな期待や力を持たせるきっかけになった人であることは確かである。 1989年12月
スコラ
「母親の娘たち」 母親の娘たち  1984年,「ボニータ・イブ」に6回連載されたものを1冊に収録したもの(あとがきによると,描かれたのは1983年)。「大きくなったら何になりたい?」ではなく,「大きくなったら何をしたい?」と子ども達に尋ねるといいのにというメッセージが目次にある。
 大概の女性が母親の娘なのに,それぞれが価値観や親からの愛情のとらえに大きな差異を抱きながら大きくなっていく。他者の受容とか,距離を考えたりしながら。それらは,母娘関係の影響もあるはずである。現在は当たり前に議論されるようになった,母と娘の関係性について,この作品が与えた影響は大きいとボクは思っている。
 また,ボブ・ディランさんの,『My Back Pages』を思い出した作品でもある。歳を重ねることによって,若くなることもあるのだ。 
1990年3月 河出書房新社
「ポケットの中の季節」 贈り物
見えない秋
菜の花
病気の日
海へ...
冬の花火
跳べないとび箱
菜の花畑のこちら側
おとうと
おねえさんの結婚
ウルグアイからの手紙
昇平くんとさちこちゃんの夏休みの絵日記
 『ポケットの中の季節1・2』を1冊に収録したもの。2の巻末にあった,4コマの『かみなりジグちゃん』がなくなっている。代わりに?巻頭にカラー・イラスト,巻末にコタツで眠るまーちゃん達のカットがおまけである。
 宝の山である。
 何と言っても,樹村さんのあとがきがうれしい。
1990年8月 小学館
以下順次掲載予定

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