「アンコールワットは、銀座並みだって聞いてきたけど、ほんとねぇ。」と、仲間のひとりがつぶやく。
私はというと、アンコール遺跡の発掘や復旧の映像でしか知らない。アンコールワットは、うっそうとしたジャングルの中にあると、ず〜っと思っていた。こ〜んなに陽当たりよく、そして門前に土産物屋が並んだり、ぞろぞろと行列が続いたりしているなんて思ってもみなかった。まさしく、一大観光地である。
ワットはお墓だそうだ。お堀にかかる橋は、現世とあの世(ワットの中)をつなぐ橋なのだそうだ。その橋を毎日わたって、中央祠堂の急勾配を這うようにして上る。「あの世」で神々とむきあって絵を描き、夕闇が迫る頃橋を渡って「現世」にもどっていく。毎日天に招かれ、そして新しく生まれゆく、輪廻転生のミニ版を、繰り返してきたような今回の旅である。毎日現世とあの世とを行き来していると、普段目の前のことに追われてあくせくしている自分や、職場の複雑な人間関係にへとへとになっている自分が、なんだかとても縮こまった存在に思えてきた。
この塔は私がこの世にやってくる遥か何百年も前からここにあるんだなぁ。そして、これから先私がこの世からいなくなっても、きっとずっとワットはかわりなくここにあり続けるんだろうな。大きな時の流れの中で、ゆるやかに崩れていきながら。ワットの歴史からみれば、私の存在も小さな点でしかないのだろう。そう思うとなんだか何もかもが楽になった。もうどこにも行かなくてもよいのだ、いま以上の何かを望まなくても、いま以上の何かに成らなくても、もうよいのだ。私は私を丁寧に全うしてここに有り続ければ、それでいいのかもしれない。
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