象のテラス・ライ王のテラス

                   

 ライ王のテラスの内壁と外壁の間は迷路のようになっている。ここでアプサラのレリーフを描いていると、いろんな国の一団が通り過ぎていく。韓国語あり、ドイツ語あり、英語あり、中国語あり、そして、もちろん日本語の一団も通っていく。スケッチブックをのぞき込んでは、いろいろと話しかけてくれる。風のぬけが悪いので、汗だくになりながら描いていると、さっきから私たちの前を小学生くらいの日本人の女の子がひとり、往ったり来たりしているのに気付いた。 すると、意を決したように、「すいませ〜ん、今話しかけてもいいですか?ここ出口ありますか?」とその子が言う。絵を描く私たちの邪魔になってはいけないと、精一杯気づかってのことだ。どうやらこの異国の小路で親とはぐれてしまったらしい。さっきからの彼女の心境は、いかばかりか。きっと心臓バクバクに違いない。「どうしたの?誰と来たの?ここは一本道だから、ずっとたどって・・・・」と言い終わらないうちに、その子の名を呼ぶするどい声が飛んできた。父親らしい。彼の心配も半端じゃなかったのだろう、私たちがいることも目に入らない様子で散々叱りとばしたあげくに「もう、そんなんだったら、連れてかないから! もう、帰る!」と、まるで駄々っ子のように言い捨てその場から立ち去ってしまった。後を追う娘。・・・オイオイ。帰るったって、いったいどこに??とつっこみを入れてしまった、私たち。休日の大型ショッピングセンターでよく見かける親子の図を、こんなところに来てまで見てしまうなんて・・・トホホ、悲しいぞ、ニッポン人。それにしてもなんと出来た子だ。彼女は人にものを尋ねるときのマナーを心得ている。しばらくたって、頭上のテラスから、軽やかな声が聞こえてきた。「あ、絵描きのおねぇさんたちだ。おねぇさんたち、さっきはありがとうごさいましたぁ。」彼女だ。つくづく、良い子だ。そして、「おばさん」と呼ばれなくって、ほ〜んとよかったぁ。

 その後彼女の一家とは、行く先々の遺跡で何度となく出会った。よほど縁があったのか?

ライ王のテラス横の象のテラス、象の行進レリーフ

プラサット・スゥル・プラット

ライ王のテラス・象のテラス前にある12個の塔

象のテラス

テラスを支えるガルーダ。足下にはナーガを踏みつけている。