平成19年2月定例会代表質問(平成19年2月23日)No.8

2.県政の諸課題

<農業の発展と支援について>


 平成19年度に向けたサマーレビューでの改良普及員の業務内容の考え方について整理された、普及活動が基本的に担う部分について拝見させていただきましたが、一抹の不安を感じましたので質問させていただきたいと思います。

 本県の農業の現状を見ると、平成16年度の県内総生産額の約2兆500億円のうち、農業総生産額は約379億円程度、第一次産業全体の生産額で見ても517億円程度を占めるに過ぎず、現在でも減少傾向にあるものと思います。県内の景気回復のためには、第二次、第三次産業の部門では、企業の頑張りに期待するしかない状況で、企業の経営内容の好転を待つというのが地方の偽らざる本音だと思います。

 ならば第一産業はどうなのか。行政が誘導するのではなく、各農家に頑張っていただくことが基本と、これまで知事が言ってこられた自立がキーワードとなることは理解できます。自立できる者から自立させていこうとの表現が適切だと思います。知事も自己責任を強者の理論で一方的に押し付けるのではなく、自分の考えで自分でできるものは自分でしてくださいとの意味で、自立という言葉を用いられているという前提で次の質問をさせていただきます。そこで農業者の自立と行政の役割について、これまで農業者とともに悩み、励み、農業振興に大きく貢献されてきた農業改良普及員の今後についてお伺いします。この改良普及員の業務を、どのようにイメージされているのか知事にお伺いしたいと思います。

 確かに、農業協同組合は消費者という目に見えない者に対して、生産、流通、販売等の一連の流れが円滑に行え、リスクを最小限に抑えることができるようにと各農業者が護送船団を組んだ組織であると思います。もしこのような農協という組織から離れ、自立度が高く、大型の農業者がみずからの利益だけを優先して販売を含めて自立していけば、販売ルートを持たない小さな農業者は、幾らいい物を生産しても、生活するすべを失いかねない事態を招くものと思います。しかしながら一方では、特に大都市への市場への出荷には相当に大きな生産ロットが必要とすることから、少数の大型農家の生産量だけでは、産地間の競争に生き残ることも難しい状況にあります。結局、本県のような大産地でない農業地域においては、幾つかの専業農家に加え、それを取り巻く多くの兼業農家の存在があり、農協に販売を集中させることで地域農業が成り立っていると私は考えますが、知事の御所見をお伺いします。

 続いて、農業支援についてお伺いします。
 農業の現場では、農業共同組合が営農指導、販売支援を行い、行政の機関として県の普及員が営農指導と集落営農、販売、経営改善などにもかかわっておられ、加えて県の総合事務所農林振興局、市町村などそれぞれの役割に応じて農家の支援に携わっておられます。このように農業者には農協、市町村、県の農林局、普及員が連携してかかわっていることをまず整理しておきたいと思います。知事はミッションという具体性のない表現で、さまざまな質問に答弁されていますが、今農業者が求めているのは、ミッションというあいまいな言葉ではなく、具体的な支援策であると思います。仮に農業者が支援を求め、その担当機関がその能力を持っていない場合、農業者はどうすればいいのでしょうか。これまでどんな場合でも、うまく進まない場合には、普及員がどうにかしてくれるとの安心感が農業者にはありました。

 今後サマーレビューのような業務区分が厳格に実施された場合、現場で問題が生じて本人では解決が難しくなった場合、普及員の役割として責任を持つ機関に助言するだけなのでしょうか。それとも普及員が、各機関等の調整などの実質的な解決に向けて、一歩乗り出していただけるのでしょうか。知事の御所見をお伺いします。

 私は、農業で今一番問われていることは、まず普及員の人材育成であると思います。知事はこれまでの施策が成果をあらわすには数年かかると述べられていましたが、人材育成も同様に数年かかるわけで、早急に人材育成に取りかからなければ、人材は育成されません。県として、普及員の育成をどのように考えておられるのか、お伺いしたいと思います。 


●知事答弁


 農業改良普及事業、農政に関して改良普及員の業務というものをどのようにイメージしているのかということですが、改良普及員のそのあり方というのは、やっぱり見直しをしなければいけないという問題意識をずっと持っていました。それは改良普及事業というのは、なにゆえにやってきているかということですが、もっと前に言いますと、我が国にはいろいろな職種、産業があるわけで、農業以外に第二次産業、第三次産業、多種多様な産業がある中でなにゆえに農業だけに手厚い、その職業指導体制、後押し体制、推進体制があるのかということです。中小企業に若干その経営診断をやるとかいうので以前からありましたけれど、それらを除きますと、他の産業業種でこれほど手厚い産業指導、経営指導を行っているところはないわけです。

 なにゆえに農業だけがということですが、これはやはり我が国が戦前戦後を通じて食糧が不足していたということが一番の背景だと思います。国民に食糧を供給する。そのために食糧を確保しなければいけないということで、政府、行政が音頭を取って農業を国策として引っ張ってきたわけで、その牽引役が最前線では農業改良普及員だったわけです。ですから、明らかにこれは食糧不足の時代を背景としたできた仕組みだと思います。今どうかといいますと、これは将来食糧不足がまた私はくると思いますけれども、今一昔前から今日に至るまで食糧不足ということからは、我が国は解放されているわけで、そういう意味では改良普及事業をめぐる背景というのは大きく変わっているだろうと思います。

 それなら改良普及事業はいらないのかというとそれはそうではなくて、今日的な新しい観点から必要性があると私は思っております。それは何かというと、いろいろな経緯があったのだと思いますけれども、我が国の農業、その農業を支える農家というものがちょっと表現が難しいですけれども、かなり弱体化しているということ。自立からかなり遠ざかっている農家が多いという。しかし、農地を守り、それから今は食糧が不足してないけれども、長い目で見たら我が国は食糧不足になる素地を立派に持っているこの日本列島ですから、そういうことを長期的ににらみますとやっぱり農業というのは大切にしていかなければいけない。また農地を守るだけではなくて、農業技術を伝承していかなくてはいけない、そういう課題もあるわけで、そういう非常に重要な分野でありますが、かなり主体が弱体化しているという、こういうときにどうやって支えて引っ張っていくか。新しい観点からのミッションがあるのだろうと思います。したがって、今までのままではいけない。変わらなければいけない。ではどう変わるかというのが、今回のその見直しのポイントで、それはせんじ詰めればやはり農家の自立支援。国策としての食糧調達、食糧徴発というその当時のミッションではなくて、農家が自立をするためのサポート役になるということだろうと思います。こんな基本的なイメージを描きながら今回の改良普及員業務の見直しというものを行ってきたところです。

 農家が生産して、その流通過程を通じて販売していくというときに自立した、例えば専業農家などで自立で独自に販売網を持てるところはいいけれども、そうでない零細の農家はどうすればいいのかということだと思いますが、小さい農家であってもやっぱりそれは本来は経営者として企業ですから、企業体ですから、経営者としてみずから生産し、生産するということは当然売り先も念頭において生産するわけで、みずから考えなければいけないことだと思います。これが基本だと思います。つくりさえすればだれかがやってくれるというのは、これは企業ではないわけです。

 
ただ現実の問題としてはなかなか自分で販路をすべて開拓するというのは無理でして、そこで零細個々の農家の皆さんが協同して流通とか販売の仕組みをつくりましょうと言ってできあがっているのが農協のはずです。ですから、農協のミッションというのは、今申し上げたようなことを具現化することだろうと思います。ですから、今日においても、特に零細の農家の皆さんが多いわけですから農協の役割というものも、以前に比較してふえることはあっても激減するとか、それからなくなるということではないと思います。農協が本来のその役割、ミッションというものをもう一回再認識して、農家の皆さんのニーズはどこにあるのかということをよく踏まえて農協がこれからいろいろな改善をしたり、行動をするというということが必要なのではないでしょうか。

 今回の改良普及事業の労務区分についてお話がありまして、従来だったら農家にしてみれば、困ったことがあったら普及員が解決してくれると、何とかしてくれると、それがこれからどうなるのだろうかということですが、困ったことがあったらだれかが全部解決してくれるというのではやっぱり困るのです。やっぱり経営者は最終的には自分で責任を取らなければいけないわけで、経営主体はだれかというと普及員ではなく、零細であっても個々の農家ですから、困ったことがあって支障があっても最終的には自分がしりをぬぐわなければいけない、これが企業であり、事業者です。ですから、そこのところの自覚はやっぱりしておいてもらわなければいけない。行政の言うことを聞いてやって、あとは困ったらだれかがしてくれるだろうというのでは、これからは通らないと思います。

 それを前提にして行政、今回のケースでいいますと、改良普及員はどういうサポートをしていくのか、できる限りのサポートをどうやってしていくのかというこの間柄、関係をつくっていくのが、今回の業務区分といいますか、見直しの一つの大きなポイントだったのだろうと思います。この点につきまして、農林水産部長の方から補足答弁を申し上げます。

 改良普及員の人材育成が重要ではないか。これはおっしゃるとおりで、私もそのとおりだと思います。もっと言えば、本来は農業者の育成が一番重要なのです。育成というのは変ですけれども、自立した農家がいかに多くなるか、これが一番のポイントだろうと思います。改良普及員だけが立派に育成されて農家がだめだったというとこれは本末転倒で、一番はやっぱり農家、自立した農家がいかに多くなるかというとことで、そのサポーターとしての改良普及員ももちろん重要になりますから、その人材育成ということが次の課題になってくるわけです。これはそのような認識を県としてもしているところで、具体的にさまざまな啓発とか研修とかの機会も設けております。

 ただ昔と違いますと言って、私もそんなに昔をよく知っているわけではありませんが、昔は大半が実は農家なり、農家に関係がある人だったと思うのです。私なども農家の生まれですし、公務員になる人なんかでも農家の出身者とかなりウエイトが高かったのです。早い話、私などが国家公務員になったときに、同期入省といって20人弱入ったのですけれども、地方の出身者で基盤が農家、兼業農家などが多かったです。最近、国家公務員になる人なんか見てみますと、ほとんど東京とか大都市の出身で、農家とほとんど縁がないということです。県庁に入ってくる職員の皆さんもだんだん農家離れになっていて、農業に携わったことのない農業改良普及員がほとんどではないかと思うのです。こういうその人材育成の、一番のもとの基盤とか背景が随分変わってきていますので、実はなかなか育成面でも苦労はあるのです。それならば採用の仕方を変えたらどうかという意見も実はあるわけです。ペーパーテストとか大学の試験とか、そういう大学の成績とかそういうことではなくて、農業体験とかそういうものを加味した試験にしたらどうかという意見も、実は出てくるのはゆえなきことではないのです。実はそんな問題もあるのですけれども、当面人材の育成ということは重要なことですので、いろいろなことをやっておりますので、これについて農林水産部長の方から答弁申し上げます。

 

●河原農林水産部長答弁

 改良普及員の役割ということで、今回の普及活動の見直しですけれども、普及活動を自立支援型に変えていこうというのがまず眼目です。

 基本的な考え方は、知事が先ほどから述べていますとおり、その自立的あるいは企業的な農業経営を目指して農業者等が行われます経営改善ですとか、新しい取り組み、こういったものが軌道に乗るまでの過程を重点的に支援していこうという考えに立っております。支援対象の重点化も考えておりまして、認定農業者、集落営農、それから規模の大小は問いません。企業的な農業経営に意欲的に取り組み、目指す方ということです。支援内容も重点化しようということで、 基本的には新技術ですとか、それから農家が行います新しい取り組み、これは新品目を栽培してみようだとか、それから販路を拡大しよう、こういったことに関する指導あるいは経営アドバイス、こんなことを中心にやっていこうということです。そのとき一般の農家、兼業農家はどうだということですけれども、そちらの方については基本的には農協の方、農協にやっていただきたいと考えておりますが、もちろん、その手のひら返しでころっと変わるというようなことは毛頭考えておりません。ですから、農協の方の体制も整うまで、あるいはこの見直しがなじんでくる間は柔軟に対応していこうと思っております。

 お話にありましたが、仮に一般農家の方が普及所に相談を持ちかけられたときにどうするかということですけれども、もちろん技術的な指導も行なわせていただきますし、必要に応じて関係機関を紹介したいと思っております。あくまで開かれた相談窓口ということでやっていきたいと考えているところです。

 2点目は、改良普及員の人材育成についてです。
 実はこの点についても、これまでも手前味噌ですけれど、意を払ってやっているつもりです。幾つか御紹介しますと新規採用者に対しては、ベテランの改良普及員がトレーナーということで貼りつき、OJTを実施しております。それから従来は普及所の体制として地域班体制をとっておりました。何々地域に作物の普及員、それから果樹、野菜、畜産とこうセットでそろえた地域班体制をとっておりましたけれど、やはり技術の伝承がなかなかできないということで、平成17年度からは、特技、技術の専門班ということに組み替えをしているところです。

 あと人事面ですけれども、一般の職員は3年をめどに移動、人事異動というのを我々も考えるわけですが、この普及員の場合はやはり技術を習得しなければいけない、地域になじまなければいけないということで、普及員の場合には5年を一つのめどとして、人事異動を考えているところです。これは先ほど知事も申し上げました、最近では特に新規採用者、ほとんど非農家の方、あるいは農家出身でも親御さんに農業を手伝わないでいいというような方が多いわけで、入った後は試験場等で農作業体験というのを、研修をかなりやっているところです。

 今後はやはり自立的給与的な農業経営を目指す方をサポートしていくということになるわけですから、これまでの能力に加えて経営分析の手法ですとか、マーケッティング流通、こういった能力も備えなければいけないということで現在もやっておりますけれども、これまで以上にこういった面については研修を強化していきたいとに思っております。その際には、県独自あるいは国の研修もありますので、そういったものもフルに活用して頑張っていきたいと思っています。
 

<農業の発展と支援について>No.2


 普及員の皆さん、先ほど議論しましたけれども、県庁の中で机に座って仕事をされているわけでもありません。私は普及員という職種は農業に関する知識を持ち、お客様を訪問して、対面し話をしながら農業者のニーズをとらえ、商売をしている一つの商店主のようなものと考えております。店を開けお客さんが来る、商品は置いてある。でもあなたに売る商品はありませんからほかを当たってくださいなどとは言えないと同様に、農業者の悩みに対する知識を有していながら私の担当ではないというので他の機関を紹介しますという対応はやっぱりどうかと思いますし、専業農家だけを相手に、要するに国が専業農家中心の農政ですから、専業農家だけを相手に支援をするわけにもいかないと思っております。つまり私が言いたいのは、農業者が困ったときに普及員に相談すればやっぱり親身になって何とかよい知恵を出してくれる、このように最後の頼りとして普及員がいるという安心感が、やっぱり今日の鳥取県農政を支えてきたといっても私は過言でないと思っております。以前、普及員の経験のある伊藤美都夫議員や上場企画部長もここにおられますけれども、多分そう思っておられるのではないでしょうか。普及員の皆さんには、農業に関して生産の技術的な営農指導から集団営農への取り組み、販売、個々の農家の経営改善など、広範囲にわたる業務で御苦労をかけているわけですけれども、現場の実態に合わせ、農業者の実態に合わせ親身になって指針ができる機関として残すことがこれからの農政にも引き続いて必要だと思っております。

 農業普及員というのは、表はなかなか出ることはないわけですけれども、行政機関の縦割りの中のひずみを埋める役割とか、また現場実態に合わせて機能的に動ける一つの機関として、ぜひとも引き続いて残していただくような検討をお願いしたいということで、これはもう時間がございませんので要望にしておきたいと思います。