鳥取県東部医師会報用に準備した≪随筆≫集 : 本稿は2012年9月号(No.401 p.67-70)に掲載
|
|||||||||||||||||
◇ 1981年、中病に赴任後、厚生省・厚労省や文科省の研究班等に関わるようになり、上京を繰り返していたが、会議が終わってから夜行(出雲号)でのとんぼ返りで病院に戻るのが常だった。妻の進言があり、都内に泊まり、翌朝第一便のANAで帰鳥し、病院に直行して診療を開始するようになって、サントリーホールの会員にもなり、オーチャードホール、芸術劇場などで、各種の公演を視聴するようになり、分からないまま、オペラも体験するようになった。 ◇ 転機は2005年秋で、佐渡 裕 監督による兵庫芸術文化センター開館後、大・小ホールで、同管弦楽団定期演奏会等・各種室内演奏会を聴き、同監督プロデュースオペラを体験してきたことと、2010年秋、機会に恵まれて自称〔Grand-Pa Hall“MIRO”〕を得て、演奏会場並みの音響でオペラ等の研修を重ねたことにある。 ◇ ベートーベンの弦楽四重奏、ピアノソナタ等は、以前は頭で考える(〜ストレスを感じる)がごとくの聞き方だったが、いつしか、心身に染み入るように、初体験の楽曲でも穏やかに聴けるようになっている。そうした経緯や、洋画は字幕で見ているではないかとの気づきもあり、いつしかオペラに傾倒していった。といっても、今尚「小学校レベルかなぁ」といった自己評価だが・・・。 ◇ 還暦を過ぎた身で、業者に委ねず、生涯研修の一環として、全て自立企画・単独での2011年5月のロンドン(本会報「ロンドン点描」1〜6)はミュージカル主体で、クラシックはロイヤルフェスティバルホールでのオーケストラ3公演に留まり、西欧ではオペラは未体験だった。2012年、ドイツ語圏、音楽の都ウィーンに挑戦した。下調べを重ね、ウィーン国立歌劇場、ムジークフェライン、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、コンツェルトハウス等に無料ネット会員登録をした。 ◇ 翻って、高校教師退職後の在阪のクラシック音楽導師と、約40年ぶりに飲食を共にする機会があった。空白を感じさせない関係性を垣間見た妻が、小生の呟きに「行くんじゃない。誘ってみたら!」と。ウィーン行を提案すると、導師は即答的な返答だった。(西欧初体験・海外2回目という導師転じて)同志との弥次喜多珍道中が決定した。5月の連休に当直3枠(〜5月計6枠、東部医師会急患診療所当番3枠)をこなし、国立歌劇場の演目を見て、日程を決めた。 ◇ ウィーンフィルは、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の精鋭がオーケストラピットから出て、ステージ上で自主演奏する際の名称〜今回、ウィーンフィルを計6回聴いた。国立歌劇場3、ムジークフェライン大ホール“黄金のホール”2、国立歌劇場小ホール(ウィーンゆかりの大作曲家グスタフ・マーラーにちなんだ“マーラーホール”)で、全て業者に委ねず、ネット購入で、超破格の安値〜気分は学生。業者に委ねると、ウィーンでのウィーンフィル演奏会は席種を問わず\34,000。今回の9公演合計のチケット代金は331 EUR 〜 学生的計算をすると、チケットを自主手配したことで、往復の旅費(フィンエアー正規格安往復運賃 \58,200、燃油諸税等 \59,680)とホテル代(四つ☆・朝食付)\62,736が浮いた。
◇ 現代最高のメゾソプラノの評が定着しているエリーナ・ガランチャが【皇帝ティートの慈悲】に実質主役であるセスト役で出演するとのHP情報を得て、期待が高まった。結果、ガランチャの声は、強いて例えれば、純音の音叉のごとくの濁りのない声で、ピアノの声量でも会場にスーッと心地良く通り、一方、フォルテは余力を感じさせる安定した持続力〜驚嘆した!
◇ モーツアルトが死の年に書いた【皇帝ティートの誘拐】は、約200年の間、評価が低かったが、2003年のザルツブルク音楽祭で、ニコラウス・アーノンクールが取り上げ、指揮をしたことを端緒として、評価が高まり、上演が繰り返されている。この際、ガランチャが登用され、アンニオ役で実質世界デビューしている。 ◇ ガランチャは2010年のメトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)で、ビゼーの【カルメン】で主演し、絶賛されている。この映像をNHKが放映しているが、とにかく素晴らしい! 自身の評価でも最高だが、世の評価も歴代カルメンの最高峰に位置づけられるほどである。ガランチャは同年のベルリンフィルのジルヴェスター・コンサートにも出演した。メインは【カルメン】の著名なアリアであり、本演奏会を“ガランチャ・ナイト”と自称している。自身、傾倒していたガランチャがウィーンで体験できた“事件”は、わが乏しい音楽体験の最高峰に君臨する。 ◇ 奇跡的との自己評価をしているのが、13 EURで付与された上段ロジェであり、上手2列目ゆえ、座していてはオーケストラピットや舞台は見えないが、それは先刻承知で、重要場面等は立って、舞台下手半分を覗き込んだ。真下のオーケストラ・ピットからは、弦の音チェンバロの音など、スーッと伸びて届く。これは“土間”と称せられる“舞台を見る”・“ドレスを見せる” 高額席では体験し得ない。 ◇ 帰国後、追体験する気分で、国立歌劇場HPで来シーズンのスケジュールを眺めた。すると、2013年5月下旬に、何と、ガランチャが【カルメン】で主演する。相手役のホセはメトロポリタン同様、現在最高のテノールの一人で、ホセを歌いこんでいるロベルト・アラーニャであるとのHP情報を得た。嗚呼・・・、来年もウィーン研修の期待が高まる。尽きない自主研修人生! ◇ 長くなったが、やはり初体験のムジークフェラインについても一言。ウィーンフィルの定期演奏会は、国立歌劇場での演奏が本務であるがゆえに、土日の昼間(開演は土曜日15:30・日曜日11:00)にある。HP情報で「完売になっている定期会員になるためには13年待ち」と、かつ、「若干枚のチケットの戻りがあり得るので、欲する人は1週間前に連絡を」とある♪。今回、定期演奏会を体験すべく、事務局にメールし、幸い、音が聴き易いギャラリー(正面3階席)を得た。音響が世界一とされるムジークフェラインでのウィーンフィルの音、それもモーツアルト(一曲目が交響曲第39番)の冒頭の弦の響きを体感して、大納得! ◇ 転じて、山の景色では大学浪人時代の秋に大山に初登山(下宝珠越)した際に、尾根道から開けた三鈷峰の紅葉を思い出す。近年、“音の風景”と称する記憶が残っていることに気づくようになった。 ◇ 今回、ガランチャの抜きん出た声、ワーグナー【さまよえるオランダ人】での合唱の強さ、ムジークフェラインでのウィーンフィルの弦の音、コンツェルトハウスでのゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団のストラヴィンスキー【春の祭典】、偶然の体験となったアウグスティーナ教会の日曜ミサ(ヨーゼフ・ハイドンのミサ曲で約1時間半)での専属室内オケ・合唱団・ソリストとオルガンの響きなど、多くの“音の風景”が残った。 ◇ 感謝至極の念を抱きつつ、診療の日々に復している。 ♪:日本ではチケットを購入し、公演当日不都合となった場合は、そのまま空席になるが、少なくともウィーンではオフィスに委ねて、必要とする人に譲る文化が定着しているようです。ムジークフェラインを別格とすると、ウィーン第一のコンサートホールであるコンツェルトハウス大ホールにおけるロンドン交響楽団演奏会も同様のシステムにより、一般発売の機会(現地0時;小生は当直明けの7時)に、いわばヨーイドンで購入画面にアクセスしたら、狙った2階バルコニーは最前列中央の2席のみであり、これを確保! 急患対応中であれば、得られなかったVIP席でした。 |
|||||||||||||||||
|